不快な夕闇(マリーケ・ルカス・ライネフェルト)

何度も暴力を振るわれているのに、夫と別れられない友人がいます。彼女がオリに閉じ込められているのなら、やり方は簡単で、そのオリをまずは力づくでも壊して連れ出せば良いのですが、彼女の中にオリがある場合、それは私にはどうしてあげることもできません。

自分の内側にあるオリが、愛情のような自分を構成する根本的な感情である場合には、自分が自由になるには自分を破壊するしかなくなってしまいます。大人になれば、致命的な傷を負わないように、プロの力などを借りながら慎重にオリからの脱出出口つくり、脱出する、といったことができる人も多いと思います。

でも、立場の弱い子供は、違います。

この本の読書体験は、あれをやっていたと思ったらこれをしたり、現在にあったはずの意識が過去や空想に自在に飛んだりするという、子供ならではの多動な視点を疑似体験しながら、恐れているものの姿がぼんやりと見えてくるというものです。それは本当に、不快な夕闇のような、輪郭のわからない不気味さなのです。

脂だらけのクリーム缶、便の詰まった腹、ハエのフンだらけのランプ。
心地よい描写はほとんどなくて、切なくて救いようのない終わりかたですが、
文体に清潔感と子ども特有の軽快さがあり、飲みこむことができます。
でも、主人公が牛の肛門に隠した検査棒のように、奥にずっと残ってしまう、そんな作品です。