職人のような60代の女性殺し屋、この世界しか知らない女性が、キャリアの最盛期には絶対に犯さなかったであろう致命的なミスを犯し、それによってこれまでに絶対に発見できなかったであろう、この世にある瑞々しく美しいものを発見してしまう。それが、自分の心の中にもある柔らかい部分を共鳴させてしまう。若い頃には全く反応しなかった部分を。
それを守るために、今の自分が使えるのは人を殺すという技だけ。錆びつきつつあるその技を、もう一度磨き直し、美しいものを守るために使おうとするけれど、その美しいものを傷つけようとするのは、自分がかつて傷つけた相手であり、その相手も内部に柔らかいものを抱えている。
『子供のぷっくりした頬に、宇宙の粒子が広がっている。一つの存在の中に収斂された時間、凝縮した言語が、子供の身体からリズムをまとって弾けだす』
殺し屋が主人公の小説だけれど、その文章は湿度が高くて細やかで、心の奥深くにまで浸透して自分の柔らかい部分を一気共鳴させてしまう、そんなお話。読み終わった瞬間、お腹の奥の方から涙が込み上げて溢れてきて、自分でも驚いてしまった小説です。