「映画を観たなあ」と、思える映画です。
昔のようで未来のような、どこでもない時代。乾いた笑いと猛毒。醜悪と圧倒的な美。細いフォークで胸を掻き回されるような音楽。目を見開かされる衣装。レプリカだという本物のように見せる脚本。全ての総合芸術のパワーに身をひたすことができます。
このパワーに何か名前をつけるとするならば、私が感じるのは、大人になった人の中にある【不安な子供】なのではないかと思います。
誰もがもつその記憶、暗い物置に閉じ込められた記憶や、コンパスの針で自分の部屋の壁を何度も突いた記憶や、寝具に体が擦れたときに感じた突然の快楽の記憶や、この世の理不尽さに叫んだ記憶が、蘇ってきて、それらが自分でも制御できないほどの力を持って現在の自分を捩じ伏せていくのを感じました。
主人公のベラが色々な男達とセックスする様子が繰り返し描かれますが、私はそれは、社会と自分との摩擦のように見えます。社会の中にあるダブルバインドに身をさかれる思いの中で、そこに生という快楽があるという矛盾も感じているのではないかと。観ている私たちもそこに共鳴してしまうので、なんとも居心地の悪いような良いような気持ちにさせられ、それが、なかなか映画でしかできない表現であるので、「映画を観たなあ」という気持ちにさせられたのだと思います。