子どもに勉強を教える、というのは、多くの人にとって、愛の行為以外の何者でもないと思います。割合って何? もとにする数って何? 0✖️5も0➗5も0になるのはなぜ? 「小学校6年分の算数が教えられるほどよくわかる」(小杉拓也著・ベル出版)などを読み、なんとか自分で咀嚼してから、隙あれば逃げよう寝ようとする子供をなだめすかしてわかりやすく伝えようとするのは、自分の教養を高めよう、ボケ防止に、などといったモチベーションではとてもできないことだと思いますから。
でも、私はその行為が、自分のためでもあると思うようになっています。
算数の世界に出てくる太郎さんは太郎さんでも二郎さんでもAさんでも誰でもよく、りんごは腐っていても大きくても小さくてもりんご。腐ったりんごを渡した花子さんがどんな気持ちになるかなどを想像する必要もなく、究極にシンプルに「数」の世界だけに集中してその深淵な世界へと再び潜り込んでいくのです。その深海に広がっているのは、いつか見たはずの、とはいえ社会人暦20年の自分にはすっかり縁遠くなってしまった世界です。その世界に、愛する子供のためにどっぷりと1時間も浸っていると、なんだかとても癒されるのです。私はもうテストでいい点をとる必要もないから、そこで何かを得る必要はないのだけれど、数によって究極なまでにフラットにされた癒しの世界を愛する人と垣間見られるのは嬉しいことなのです。